皮膚解剖学&生理学
皮膚の機能
皮膚は身体で最大の臓器であり、動物の生存にきわめて重要である。
皮膚は以下のような多くの機能を担っている:
- 体全体を覆うバリア
- 物理的保護
- 動きに柔軟性をもたせる
- 体温調節
- 知覚
- ビタミンD産生
- 貯蔵
- 分泌
- 排泄
- 免疫調節
- 抗菌作用
- 色素沈着
- 健康状態の指標
皮膚の層
皮膚は、表皮、真皮、皮下組織というそれぞれ別個の層で構成されている。
表皮
表皮は層と呼ばれる複数の重なりからなる。体の部位によって、その厚さはさまざまである。
真皮
皮膚の中層である真皮は、強度と弾性を備えており、コラーゲン線維、汗腺、皮脂腺、立毛筋、毛包、基質からなる。基質は、水分貯蔵、恒常性、他の構造の支持を担うグリコサミノグリカンおよびプロテオグリカンで構成される。真皮にはいくつかの細胞が認められる。コラーゲン生成を担う未成熟細胞である線維芽細胞、損傷またはアレルギー刺激に応答してヒスタミン、ヘパリンをはじめとする炎症性メディエータを放出する肥満細胞、細菌を食菌(貪食)する組織球、抗原プロセシングと抗原提示を行う真皮樹状細胞である。
皮下組織
皮下組織は皮膚の最深層である。主に、断熱、パッド、および予備エネルギーの貯蔵場所として機能する脂肪組織で構成される。皮下組織にも血管およびリンパ管、神経が存在する。
皮膚による保護
皮膚は3つの機序で身体を保護している。
- 主に被毛および角質化した皮面の物理的構造は、外側バリアとして機能する。これらは水分、電解質をはじめとする成分が失われないよう身体を保護している。表皮細胞および被毛の交代または離脱により、皮膚表面の微生物数および残屑を調節することができる。
- 皮膚の皮脂腺およびアポクリン腺から産生される分泌物である皮脂および汗が、第2の保護成分である。これらの産物には抗菌ペプチド、免疫グロブリン、インターフェロン、脂質、塩、有機酸が含まれており、抗菌および抗真菌活性を有する(図1.1参照)。
- 正常な細菌叢は、微生物の生態的地位(ニッチ)を専有し、他の微生物の増殖を阻害する物質を産生することによって、身体を病原菌の侵入から保護している。
表皮
表皮は4~5層で構成され、角質層が最外層となる。ケラチノサイトは表皮を構成する細胞の85~90%を占め、ケラチン(不溶性タンパク質で皮膚、被毛、爪の主成分)を合成する。ケラチノサイトは、その成長のさまざまな段階で基底細胞、有棘細胞、顆粒細胞、明細胞、角化細胞と呼ばれている。表皮で認められるケラチノサイト以外の細胞には、メラノサイト(約5%)、ランゲルハンス細胞(約5%)、メルケル細胞(約2%)が挙げられる。
これらが、内層から外層にわたる表皮の5層である。
基底層
基底膜上にある1列の細胞が真皮と表皮を分けている。基底層由来の2種類の細胞は、ケラチノサイトとメラノサイトである。ケラチノサイトは絶えず再生され、上方に押し上げられていき、角質層で死細胞として排出される。メラノサイトは遺伝子およびホルモンによって調節され、日光または刺激物質の刺激も受けて皮膚に色をつけるメラニンを産生する。
有棘層(有棘細胞層)
この層には基底層由来のケラチノサイト娘細胞、および免疫監視機構において機能する抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞が含まれる。有棘層のケラチノサイトは脂質を合成するが、この脂質は細胞が顆粒層に到達すると細胞間隙に排出される。
顆粒層
この層は扁平な有核ケラチノサイトで形成され、フィラグリンおよびケラチン繊維を合成する。
淡明層
この密集した層は、核のない死んだケラチノサイトで形成されており、犬および猫の足底球でのみ認められる。図解はしていない。
角質層
角質層は、脂質マトリックスに埋め込まれた完全に角化した組織からなる薄い外層であり、絶えず落屑している。強靱で柔軟なバリアを形成し、顆粒層とともに身体から水分が失われるのを防ぎ、外来物質または微生物が身体に侵入するのを防御している。
被毛
被毛は、外傷およびUV照射から保護する物理的バリアとして機能する。体温調節および知覚にも重要な役割を果たす。犬および猫は、一次毛と、それを取り囲むより細い二次毛の集団で構成される複合毛包を有している。毛包には、アナゲン(成長期)、カタゲン(退行期)、テロゲン(休止期)、エクソゲン(排出期)からなる活動周期がある。被毛の周期活動は、遺伝的要因、ホルモン、ノイロトロピン、光周期、気温、栄養、サイトカイン、内因子により調節されている。
表皮脂質
表皮脂質は皮膚機能において重要な役割を果たしている。脂質は、角質細胞のバリア機能、凝集、剥離、ならびに表皮の増殖および分化の調節に関与している。犬の皮膚表面の脂質はコレステロール、コレステロールエステル、ジエステルワックス、遊離脂肪酸、セラミドで構成される。セラミドは特に、バリア機能に重要である。
皮膚感覚
皮膚は主要な感覚器官である。温度受容器には、冷感ユニットと温感ユニットがある。機械受容器は、接触、圧力、振動、被毛の動きにより刺激を受ける。侵害受容器は刺激物質に応答し、痛覚過敏およびそう痒にも関与する。そう痒、またはかゆみは、掻きたいという欲望を引き起こす不快な感覚である。そう痒は獣医皮膚科学において最もよく見られる症状である。かゆみのメディエータとしては、アセチルコリン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、コルチコトロピン放出ホルモン、内因性カンナビノイド、エンドセリン、エンドバニロイド、ヒスタミン、インターロイキン(IL)-2、IL-31、カリクレイン、プロテアーゼ、キニン、ロイコトリエン、ニューロキンA、神経成長因子、トロンボキサンA2、トリプターゼ、血管作用性腸ペプチドなどが挙げられる。不安または退屈などの中枢因子、および疼痛、接触、熱、寒さなどの競合する皮膚感覚が、そう痒の感覚を増強または抑制すると考えられる。