猫好酸球性肉芽腫群
要約
- 猫好酸球性肉芽腫群は、猫にみられる一連の炎症性皮膚疾患を指す用語であり、以下の3つの徴候がみられる:好酸球性局面、好酸球性肉芽腫、無痛性潰瘍
- 「好酸球性肉芽腫群」という用語が用いられることが多いが、本群のすべての型が真性の肉芽腫性反応を示すわけではないため、普遍的に認められているわけではない。
- 猫好酸球性肉芽腫群」の3つの徴候すべてが古典的に過敏反応に関連しているが、すべての型が同等に過敏反応の病因に関連しているかどうかについては異論がある。特に、好酸球性肉芽腫は、特発性であることが多いとも言われている。
- 最近の研究では、「好酸球性疾患」という用語が同じ3種類の徴候を示すために用いられており、「好酸球性疾患」は、過敏性皮膚炎の猫にみられる主な4種類の皮膚反応パターンの1つであることが示された。
- 好酸球性肉芽腫群の病変は、とりわけ食物、ノミ、環境過敏症の猫にみられる可能性が高く、猫が罹患しているアレルギーの型に特異的なものではない。
どのような疾患か?
- 3つの徴候はそれぞれ外観が特徴的であり、いずれの猫品種でも発生する可能性がある。発症年齢はアレルギー発症年齢を反映する傾向があることから、若齢~中年期の猫に発症することが多い。
-好酸球性局面(病理画像ライブラリ-図1aおよび1b)
- 脱毛がみられ、隆起して紅斑性~黄色がかった局面が腹部にみられることが多い。
- 病変は、単一でも複数でもみられ、合わさっている場合もある。
- 病変は通常強いかゆみがあり、しばしば漿液を滲出して、近傍の被毛をもつれさせることがある。
- 線状肉芽腫:-硬く隆起した線状の紅斑性皮膚の帯が大腿の尾側面に沿って垂直に走っている。軽度の病変は、被毛に埋もれてしまうため、触れなければ発見が難しく、飼い主が気づかず放置することもある。
- 口腔: 口蓋または舌上の紅斑性の丘疹または結節で、しばしば中心部が潰瘍化して白色を呈する。
- 下顎:-下顎の広汎性腫脹
- 足底球:-足底球の腫脹および潰瘍化や痂皮形成の可能性
- さまざまな大きさの潰瘍化がみられ、表面がくぼみ、辺縁が隆起していることが多い。
- 潰瘍の表面は紅斑性~黄色がかっていることが多い。
- 通常は、犬歯に隣接する上顎口唇の粘膜皮膚移行部に沿った位置に発生する。
- 猫は、これらの病変にほとんど不快感を示さないことがあり、検査中に偶発的に検出される場合がある。
ほかに似ている疾患はあるか?
- 新生物(扁平上皮癌、肥満細胞腫、皮膚リンパ腫)
- 細菌感染
- 皮膚リンパ球症
- ヘルペスウィルス皮膚炎
- 大腿後側(線状肉芽腫): 合理的な臨床上の差異はほとんどない
- 口腔:新生物(扁平上皮癌)、真菌性肉芽腫
- 足底球: 落葉状天疱瘡、 形質細胞性肢端皮膚炎
- 下顎: 新生物、細菌感染, 猫ざ瘡およびせつ腫症
- 外傷
- 新生物(扁平上皮癌、リンパ腫、肥満細胞腫)
- 細菌感染
- ウィルス感染(ヘルペスウィルス、カリシウィルス、牛痘)
どのように診断するか?
- 猫過敏性皮膚炎にみられるまた別の4種類の主な皮膚疾患パターンの有無を評価する(粟粒性皮膚炎、好酸球性疾患、頭頸部そう痒、自己誘発性脱毛)。猫過敏性皮膚炎に適合する新たな病変が同時に存在する場合、疑われる病変が好酸球性皮膚炎に起因するものであるという診断確信度が増加する。
- 表皮細胞診を行って感染症を除外するか、治療の必要な二次感染を記録する。
- 皮膚擦過を行い、被毛を梳いて、過敏症を誘発する可能性のあるノミまたはその他の寄生虫を評価する。
- 必要に応じて皮膚生検を行って診断を確定し、他の鑑別診断を除外する。
どのように管理するか?
- 好酸球性局面または無痛性潰瘍として発現しているアレルギー反応については、問題となるアレルゲンとのそれ以上の接触をさけることが、治療法としてもっとも効果的である。
- 問題となるアレルゲンの除去は一部のアレルゲンのみ可能であり、これらのアレルゲンをさらに特定するには、除去試験が必要となる。
- 新規の食餌または加水分解タンパク質食を選択する。
- 食餌は、処方されたものまたは家庭で調理されたものを用いる。
- 食餌を与える期間を、6~12週間に限る。
- 反応が良好であれば食餌負荷をかけ、得られたベネフィットが食物アレルギーに関係するものであることを確認するとともに、今後、特定のどの食材を避ける必要があるかを記録する。
- 食餌試験を1、2回適切に行っても反応が認められない場合には、食物アレルギーが除外されると考えられる。
- ベネフィットが部分的である猫は、食物アレルギーに加えて他のアレルギーの存在も示唆されるため、特に注意が必要となる。
- 成ノミに対して有効な通常の寄生虫予防薬を用いて、ノミアレルギーを除外する。
- 局所的ノミ負荷量に応じて、または他の寄生虫が初期検査で認められた場合、さらなる治療が必要になることがある。
- 病変は二次的に感染したものであることが多く、好酸球性局面および無痛性潰瘍の猫ではアモキシシリン-クラブラン酸が有意な病変抑制をもたらすことが示されている。
- 上記の除外試験に対して反応が認められないか、反応が不十分である場合は、環境アレルギー要因または特発性疾患が示唆される。
- 環境が引き金となっている猫には、以下のような多様な治療法を合わせた複合療法が必要になることがある。
- 糖質コルチコイド:初期の病変がコンロトールされている段階では通常、プレドニゾン用量1~4 mg/kg/日の経口投与(PO)がきわめて効果が高い。経口薬物療法が不可能な猫では、用量10~20 mg/頭(約5 mg/kg)酢酸メチルプレドニゾロン(Depomedrol)のIMまたはSQ注射も有効である。注射は、必要に応じて2週間に1回を2~3回実施する。
- 免疫療法:アレルギー検査、皮内試験または血清検査はいずれも診断に用いることができるほど特異的ではないが、免疫療法の処方に含めるアレルゲンの選択には役立つ。
- シクロスポリン:7 mg/kg/日で効果がみられる
- 抗ヒスタミン薬:セチリジン5 mg/日
- 脂肪酸:ω3(60 mg/kg/日)
コメント
- 好酸球性肉芽腫の特発性症例の一部では、遺伝的要因が関与していることを示唆する遺伝率が示されている。
- 若齢の猫に発現する好酸球性肉芽腫では、自然に回復することもある。
- 猫に対して現在利用可能な環境過敏症診断検査は正確ではないため、特発性の反応と環境過敏症による反応を確信を持って鑑別することは難しい。
- レドニゾンは一部の猫で代謝が悪いため、代わりにプレドニゾロンまたはメチルプレドニゾロンを使用する。
- Miller W, et al. Muller and Kirk's Small Animal Dermatology, 7th ed. Miscellaneous Skin Diseases of the Cat. Elsevier, 2013.
- Hobi S, et al. Clinical characteristics and causes of pruritus in cats: a multicenter study of feline hypersensitivity-associated dermatoses. Vet Derm. 22 (2011): 406-413.
- Bloom PB. Canine and feline eosinophilic skin diseases. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 36 (2006): 141-160.
- Wildermuth BE, et al. Response of feline eosinophilic plaques and lip ulcer to amoxicillin trihydrate-clavulanate potassium therapy: a randomized, double-blind placebo-controlled prospective study. Vet Derm. 21 (2006): 150-156.
abscess
A discrete swelling containing purulent material, typically in the subcutis
alopecia
Absence of hair from areas where it is normally present; may be due to folliculitis, abnormal follicle cycling, or self-trauma
alopecia (“moth-eaten”)
well-circumscribed, circular, patchy to coalescing alopecia, often associated with folliculitis
angioedema
Regional subcutaneous edema
annular
Ring-like arrangement of lesions
atrophy
Thinning of the skin or other tissues
bulla
Fluid-filled elevation of epidermis, >1cm
hemorrhagic bullae
Blood-filled elevation of epidermis, >1cm
comedo
dilated hair follicle filled with keratin, sebum
crust
Dried exudate and keratinous debris on skin surface
cyst
Nodule that is epithelial-lined and contains fluid or solid material.
depigmentation
Extensive loss of pigment
ecchymoses
Patches due to hemorrhage >1cm
epidermal collarettes
Circular scale or crust with erythema, associated with folliculitis or ruptured pustules or vesicles
erosion
Defect in epidermis that does not penetrate basement membrane. Histopathology may be needed to differentiate from ulcer.
erythema
Red appearance of skin due to inflammation, capillary congestion
eschar
Thick crust often related to necrosis, trauma, or thermal/chemical burn
excoriation
Erosions and/or ulcerations due to self-trauma
fissure
Excessive stratum corneum, confirmed via histopathology. This term is often used to describe the nasal planum and footpads.
fistula
Ulcer on skin surface that originates from and is contiguous with tracts extending into deeper, typically subcutaneous tissues
follicular casts
Accumulation of scale adherent to hair shaft
hyperkeratosis
Excessive stratum corneum, confirmed via histopathology. This term is often used to describe the nasal planum and footpads.
hyperpigmentation
Increased melanin in skin, often secondary to inflammation
hypopigmentation
Partial pigment loss
hypotrichosis
Lack of hair due to genetic factors or defects in embryogenesis.
leukoderma
Lack of cutaneous pigment
leukotrichia
Loss of hair pigment
lichenification
Thickening of the epidermis, often due to chronic inflammation resulting in exaggerated texture
macule
Flat lesion associated with color change <1cm
melanosis
Increased melanin in skin, may be secondary to inflammation.
miliary
Multifocal, papular, crusting dermatitis; a descriptive term, not a diagnosis
morbiliform
A erythematous, macular, papular rash; the erythematous macules are typically 2-10 mm in diameter with coalescence to form larger lesions in some areas
nodule
A solid elevation >1cm
onychodystrophy
Abnormal nail morphology due to nail bed infection, inflammation, or trauma; may include: Onychogryphosis, Onychomadesis, Onychorrhexis, Onychoschizia
onychogryphosis
Abnormal claw curvature; secondary to nail bed inflammation or trauma
onychomadesis
Claw sloughing due to nail bed inflammation or trauma
onychorrhexis
Claw fragmentation due to nail bed inflammation or trauma
onychoschizia
Claw splitting due to nail bed inflammation or trauma
papule
Solid elevation in skin ≤1cm
papules
Solid elevation in skin ≤1cm
paronychia
Inflammation of the nail fold
patch
Flat lesion associated with color change >1cm
petechiae
Small erythematous or violaceous lesions due to dermal bleeding
phlebectasia
Venous dilation; most commonly associated with hypercortisolism
plaques
Flat-topped elevation >1cm formed of coalescing papules or dermal infiltration
pustule
Raised epidermal infiltration of pus
reticulated
Net-like arrangement of lesions
scale
Accumulation of loose fragments of stratum corneum
scar
Fibrous tissue replacing damaged cutaneous and/or subcutaneous tissues
serpiginous
Undulating, serpentine (snake-like) arrangement of lesions
telangiectasia
Permanent enlargement of vessels resulting in a red or violet lesion (rare)
ulcer
A defect in epidermis that penetrates the basement membrane. Histopathology may be needed to differentiate from an erosion.
urticaria
Wheals (steep-walled, circumscribed elevation in the skin due to edema ) due to hypersensitivity reaction
vesicle
Fluid-filled elevation of epidermis, <1cm
wheal
Steep-walled, circumscribed elevation in the skin due to edema